藤田医科大学の村川修一先生にインタビューさせていただきました!

藤田学園1

今回はキャリア教育・アントレプレナーシップ教育をご専門とされている藤田医科大学の村川准教授に、お話を伺いました。専門家の視点から、医療・看護業界における未来予測と、これからの時代におけるキャリア形成のあり方をひも解きます。

目次

先生のご研究・活動について

インタビュアー
改めて、今回のインタビューをお受けいただき誠にありがとうございます。はじめに、現在、主に担当されている授業やご研究テーマについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
村川先生
現在は、藤田医科大学においてキャリア教育とアントレプレナーシップ教育(以下:アントレ教育)を担当しています。学部では、「変化の激しい時代を医療人材が主体的に生き抜くためのキャリアデザイン」を必修科目として立ち上げ、大学院では、「医療現場の課題を起点にイノベーションを生み出す力」を養うアントレ教育を展開しています。

 

研究では、人材のキャリア形成プロセスと実践的なアントレ教育の設計・評価に取り組み、博士論文のテーマは起業家教育が起業意欲やコンピテンシーに与える影響について、医療系と非医療系の比較分析を通じて明らかにしております。事業創造や社会実装の実務では、大学の PBL型授業における課題設定を起点とした社会課題解決プロジェクトを地域連携の産官学体制で展開しています。

 

新規事業の立上げを軸にした実務家教員として、理論と実践を往還する教育を進めております。

インタビュアー
医科大学で「アントレプレナーシップ教育」に取り組まれるようになった経緯を教えてください。
村川先生
背景には、大学教育政策の潮流があります。文科省がアントレ教育を重視する方針を打ち出すなか、医療系大学でも同様の動きが広がり始めました

 

海外に目を向ければ、ハーバード大学・スタンフォード大学・ジョンズ・ホプキンス大学といった著名なメディカルスクールでも、医療×アントレ教育の体系的なプログラムが導入され、医師やコメディカルがイノベーターとしての素養を持つことへの期待は、すでに世界的なトレンドになっていました。

 

そうした時代の流れのなか、本学もアントレ教育の重要性にいち早く着目し、まず大学院で本格導入を決断。その後、キャリア教育が学部の必修科目へと裾野が広がっていきました。

 

私自身がこの教育を担うことになったのは、今から約7年前のことです。大学に実務家として招聘され、そこで先進医療の事業立ち上げに関わっていた際に、アントレ教育を担当する機会が訪れました。長年勤務した電機メーカーでの新規事業開発、スタートアップ推進の経験、そして大学院修士課程でアントレ教育を研究テーマにしていた専門分野も重なり、知識と実践の両面で力を発揮させていただく機会が、自然とひらけていきました。

医療分野のスタートアップについて

藤田学園2

インタビュアー
医療・ヘルスケア分野のスタートアップや産学連携には他の分野と比べてどのような特徴や難しさがありますか。

村川先生
医療・ヘルスケア分野のスタートアップには、他の産業にはない構造的な難しさが存在します。最大の特徴は、「エビデンスの壁」と「規制の壁」が二重に立ちはだかる点です。

 

新しい医療技術やサービスを社会実装するためには、臨床データによるエビデンス構築が不可欠です。そのエビデンスを構築するためには医療機関や大学・自治体等との連携が必要となりますが、多くのスタートアップはそれらとのコネクションが不足しているため、社会実装が進まないという課題を抱えています。

インタビュアー
その他には、どのような課題がありますでしょうか。
村川先生
ヘルスケア分野では、テストフィールドとしての医療機関・自治体の存在や、アカデミアを通じたエビデンスの構築、規制改革の必要性など、公共機関の協力が不可欠でありながら、そのネットワーク形成は難しく、これがいわゆる「デスバレー(Valley of Death)」を深くする要因となっています。

 

また、資金調達の面でも、ヘルスケア・スタートアップの資金調達額は5億円未満の企業が半数以上を占め、創業初期に調達に成功しても、その後、計画通りの成長が達成できず後続調達に苦戦するケースも多くみられます。製品化までのリードタイムが長い医療分野ならではの課題といえます。

 

さらに、海外展開を視野に入れると、海外の薬事承認プロセスでは国内のエビデンスを流用することが難しく、対象国ごとにエビデンスを別途構築しなければならないという障壁もあり、グローバル展開の難易度は、他分野と比較にならないほど高い点が特徴といえます。

インタビュアー
「医療×スタートアップ」という領域は今後10年でどのように変化すると予測されますか。
村川先生
少々大袈裟に聞こえるかもしれませんが、私たちはいま、コンドラチェフが提唱した「長期波動(約50〜60年周期)」の転換点、あるいはシュンペーターが言う「創造的破壊」が、産業構造の根幹を揺るがすような歴史的局面にいると思います。蒸気機関・電気・情報革命に続く第5の波として、AIと生命科学の融合が今まさに動き始めており、その震源地の一つが「医療×スタートアップ」の領域です

 

ドラッカーは「すでに起きた未来」という概念で、変化の兆候はすでに現実の中に埋め込まれていると説きました。いまの医療スタートアップの世界で起きていることは、まさにその「すでに起きた未来」の顕現です。

インタビュアー
AIなどの次世代テクノロジーが医療に与える影響や変化について具体的に教えてください。
村川先生

技術面では、AGIの実用化、量子コンピュータによる創薬シミュレーション、合成生物学の台頭といった次世代テクノロジーが、医療イノベーションのスピードを従来とは桁違いに加速させています。なかでもAlphaFold 3に代表されるAI創薬技術は、タンパク質・DNA・低分子化合物の相互作用予測を可能にし、難病治療薬の開発に新局面を開きつつあります。

 

業界では2027〜28年頃に「完全AI設計薬」の初承認が実現するとの見方もあり、10年後には医薬品開発の主役がAIである時代が当たり前になっているかもしれません。しかし私が最も重要と考えるのは、技術そのものより知の構造的転換です。

 

野中郁次郎のSECIモデルが示すような知識の螺旋的創造が、医師・研究者・起業家という従来の役割の境界を溶かしながら、組織横断的に動き始めています。10年後に競争優位を持つのは、最先端技術を保有する組織ではなく、変化をリソースとして捉え、暗黙知と形式知を自在に循環させながら、産業・臨床・教育の三領域を横断できる人材と組織でしょう。これは医療に固有の問いではなく、あらゆる産業が直面する、これからの時代の普遍的な競争原理だと考えています。

職業選択・キャリア形成

インタビュアー
先生ご自身がこの領域に進まれたきっかけやキャリアの転機についてお聞かせください。
村川先生
原点は、ソニーに勤務していた30〜40代のことです。新規事業の立ち上げに奔走する日々は、競争の激しさと過重労働で心身ともに疲弊する人生でした。

 

そんな折、会社を離れて1泊2日で行われたキャリア教育研修に参加しました。「会社員としての自分」ではなく、「人生を生きる自分」として、本当に何を目指して生きているのかを、じっくりと自分と向き合いながら棚卸しする研修でした。

 

グループワークで互いに意見を出し合い、最後は全員の前でキャリアプランを発表しました。当時、キャリア教育という言葉すら知らなかった私は、「なんと素晴らしい、生き方に目覚めさせてくれる教育だろう」と深く感激しました。

 

あの研修は、文字通り私の人生を救ってくれたと、今でも感謝しています。その後の人生で迷うたびに自己省察を重ね、自信をもって歩み続けられたのは、あの時の体験と学びがあったからです。

インタビュアー
キャリアカウンセラーの資格取得やキャリア教育センターの立ち上げについても教えてください。
村川先生
同じように苦悩する人たちに、この教育で恩返しをしたい、そう思い立って40代で本業の傍らキャリアカウンセラー資格を取得し、10年以上にわたって身近な相談に向き合い続けました。その後、現在の勤務校でアントレ教育の担当教員になったことをきっかけに、キャリア教育科目の立ち上げとキャリア教育センターの設立にも携わることになりました。

 

さらに、ここ数年は愛知県教育委員会の教育アドバイザーを拝命し、県立高校の生徒にもキャリア教育とアントレ教育を届けるに至っています。スティーブ・ジョブズの「connecting the dots」の通り、一本の線でつながった道のりだったと、今は感じています。

インタビュアー
変化の激しい時代に、医療系人材がキャリアをアップデートし続けるためにはどのような考え方が必要でしょうか。
村川先生
大切なのは、「キャリアは会社や組織が与えてくれるもの」という受け身の発想を手放すことだと思います。医療系人材は、専門職としての資格や知識を持つがゆえに、その専門性の「枠」の中に固定化しやすい傾向があると思います。しかし変化の激しい時代において、その枠は安全地帯ではなく、むしろ視野を狭める壁になりかねません。

 

私がお勧めしたいのは、定期的に「人生の棚卸し」をする習慣です。今の仕事は、自分が本当に目指す生き方と合っているか。10年後の自分はどうありたいか。こうした問いを、忙しさを理由に先送りしていると、気づいたときには大きく道を外れていることがあります。キャリアのアップデートとは、スキルの習得だけでなく、自分自身の価値観と向き合い続けることでもあります。

インタビュアー
キャリア形成において意識しておいたほうが良いことはありますか。
村川先生
医療という枠を超えて、異分野の人と交わる経験を意識的に積んでほしいと思います。私の場合、化学や電機メーカーから医療アカデミアへ転身し、職種面でも商品企画、研究開発からキャリア教育までの幅広い経歴が、結果として教育者としての独自性につながりました。

 

一見すると「遠回り」に見える無駄なキャリアでも、後から振り返れば、かけがえのない財産になっていることは少なくありません。「人生に無駄な経験などひとつもない」そして、「人生で起こることすべて良きこと」だと思います。

先生からのメッセージ

インタビュアー
自分のキャリアをどう築けばいいか迷っている学生に向けてアドバイスをお願いします。
村川先生
AIに仕事を奪われる不安から、将来の職業選択を転々と変える必要はないと思います。なぜなら、将来はAGI/ASIによって、全ての業種・職種が、無人省人化の影響を受けるからです。

 

それはつまり、変化し続ける波の上で、どの席に座るべきかと悩むようなものです。職種という「席」を探すことに一喜一憂するのではなく、前向きに未来を見据えて、まずは、自分という存在を強く信じて生きることに専念しましょう。人生に迷っていること、それ自体が、真剣に生きている証だと思います。だから、迷うことを恐れないでください。

 

お伝えしたいのは、「正解を探すより、自分の内側に問いかける時間を持ってほしい」ということです。キャリアに絶対的な正解はありません。他人の成功例や流行りの職種に答えを求めても、それはあなたの人生ではありません。自分は何に喜びを感じるのか、何のために働きたいのか、この素朴な問いと向き合い続けることが、長い目で見て最も力強いキャリアの土台になります

インタビュアー
最後に学生や若者に向けてのメッセージがあればお願いします。
村川先生
私が30代に経験したキャリア教育研修が、その後の人生を根底から変えてくれたように、人生を揺さぶるような出会いや体験は、思いがけない場所に転がっています。授業でも、アルバイトでも、旅先でも。

 

アンテナを高く張って、目の前のことに真剣に向き合っていれば、必ずそういう瞬間は訪れます。キャリアは「設計するもの」ではなく、「育てるもの」だと私は思っています。焦らず、しかし立ち止まらず、自分らしい一歩を踏み出し続けてください。

インタビュアー
今回はとてもためになるお話を聞かせていただきありがとうございました。自分自身の価値観と向き合いながらキャリア形成していきたいと思いました。

藤田医科大学の基本情報

今回インタビューにご協力いただいた先生は、藤田医科大学で准教授を務められている村川修一先生です。

名称 藤田医科大学
所在地 〒470-1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1番地98
ホームページ https://www.fujita-hu.ac.jp/
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