今回は日本男性看護師會で代表理事を務める坪田康佑先生に、現在と未来を見据えた看護師のキャリア形成についてインタビューをさせていただきました。坪田先生に、看護師を志す方に向けたキャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
先生の研究・活動について
インタビュアー改めて、今回のインタビューをお受けいただき誠にありがとうございます。はじめに、日本男性看護師會のミッションについて教えてください。



日本男性看護師會は、ケアを提供する側と、ケアを受ける側双方にとって「自分らしく生きられる世界を創る」ことをミッションに掲げ、社会問題の解決に取り組んでいます。
近年、「女性医師」のように標榜に性別が分類されていることが増えていますが、看護師においては、ケアを受ける側が性別を選択できる環境が未だに整っていません。私たちは、利用者が望む場合に性別を選べるような、利用者中心のケア環境を創出したいと考えています。
現在の医療制度や人員配置の状況では困難を伴いますが、多様な看護ニーズに応えるため、この環境整備は不可欠です。



直近で注力されているプロジェクトはどのような内容でしょうか?



直近で最も注力していることは、医療現場のカスタマーハラスメント(カスハラ)対策支援です。当会は、2019年に愛媛県で男性看護師が刺される事件が発生したことを受け、医療現場の安全確保を求める活動を継続してきています。
2025年に実施したオンライン署名活動は、約2万人の署名を集め、同年の参議院の公開答弁では、カスハラ対策が義務化される改正労働法の成立に大きく寄与しました。
さらに、東京都から都内医療現場のカスハラ対策ガイドライン策定や相談窓口設置などの業務を受注し、医療現場の安全確保に向けて進めています。安全対策を徹底し、看護師が安心して働ける環境を創るためには、業務効率化を促進する医療現場のDXも重要であるため、カスハラ対策とあわせてDX支援も積極的に行っています。



先生が描く「10年後の理想の看護現場」は、どんな状態でしょう?そこに向けた、今の一歩を教えてください。



私が願う10年後(2035年)の看護の現場は、「医療の貿易赤字解消に貢献する、イノベーション創出のハブ」となることです。
この未来に向けた今の一歩は、「看護師のイノベーション能力を解き放ち、事業家・起業家としての道を拓くこと」です。
具体的には、私自身が三角巾を生まれ変わらせた商品でグッドデザイン賞を受賞した経験を活かし、現場の看護師のアイデアを具体化し、商品開発や事業化を支援するエコシステムを創ることです。看護師を単なる従事者ではなく、社会の課題を解決するイノベーター(変革者)として、看護職域と価値を社会全体に拡大します。



先生がそのような看護の未来を目指されたのにはどのような背景がありますか?



2035年には高齢化率が33%を超え、85歳以上の人口も1,000万人を超える中、現在の医療提供体制は限界を迎えることが予想されます。その原因として、医療ニーズの増加に対する人材の不足があります。
資金に関しても、医療関連の貿易赤字はすでに4兆円に達しており、国が医療に注力することは貧乏まっしぐらという状況です。この未来予測を回避しなければなりません。
この状況を変える鍵となるのは、「看護の力」です。看護師が業務独占する「療養上の世話」の知識と視点は、高齢化する全ての消費者向けビジネスに必要不可欠です。
看護師は、困っている高齢者を最も間近で見ており、支援に関する多くのアイデアを持っています。たとえば、関西電力病院が看護師のアイデアからカトラリーセットを事業化した例があります。(その後、その子会社は、小野薬品に売却)このように、看護師の知見を商品やサービスとして海外にも通用する「外貨を稼げるビジネス」に生まれ変わらせることで、医療の貿易赤字解消に貢献できると確信しています。
そのようなクリエイティブな業界になれば、人材は自然と集まってくるでしょう。



日本男性看護師會としての対外連携(政策・教育機関・産業界)で、今後強化したいテーマは何でしょうか?



日本男性看護師會として今後強化したい対外連携のテーマは、「ジェンダーイノベーションを軸とした多様性の実現」、「看護の新しい定義に基づく教育連携」、そして「産業界へのヘルスケア貢献」です。
まず、政策面ではジェンダーイノベーションと女性活躍支援、ジェンダーイノベーションを中心とした多様性の推進を引き続き実施します。
日本はジェンダーギャップ指数がG7中最下位、男性である私たちが発言することで、政策論議が通じやすい側面があることを逆手に取ります。
男性看護師は、組織内のマイノリティであると同時に、「療養上の世話」を通じて家事・介護・育児の知識に精通しており、男性層への説得力があります。この強みを活かしつつ女性の強みも理解した上で、女性看護師の活躍の場を広げる必要性を産業界や政策決定層に強く訴えていきます。
次に、看護の新たな可能性がある教育機関に対しては、家庭科の授業との連携などを通じて、看護という仕事の多様な可能性を伝えます。特に、2025年に約20年ぶりに変更された「看護及び看護師の定義」を、“健康アウトカム増進に関与する仕事を全て看護”とした新しい視点を伝達することが重要です。これにより、看護師が臨床外の分野(政策、DX、ビジネス)で活躍できる新たな可能性を、若年層に示します。
最後に、産業界に対しては、日本の課題である労働生産性の低さに貢献します。産業ナースを通じた連携を強化し、従業員の健康経営、特にプレゼンティズム(出勤しているが心身の不調により生産性が低下している状態)の向上支援を積極的に展開、日本の企業活動を根底から支えていきます。
ご経歴・キャリアパスについて





看護学からMBA、さらに起業や博士課程研究へと歩まれたキャリアの中で、特に大きな転機となった経験は何でしょうか?



私のキャリアを振り返ると「特に大きな転機」という出来事はありません。なぜなら、看護の道を選択した時から、目指す世界は全く変わっていないからです。
もともと医療ビジネスに関心があった私は、「医療から何がなくなると医療ではなくなるか」と考えた結果、「患者」の重要性に気づき、患者と最も接する看護師を選びました。
それと同時に、医療政策において最も人数が多い看護師になることは、政策提言力を持ちうると判断し、看護学部進学の時点からビジネスと政策の視点を持っていました。キャリアの中で視野は広がり、視点も増えましたが、核にある目標は一貫しています。



影響を受けた人物や出来事はありますか?



私の活動は、起業家であり発明家でありインフルエンサーでもあったフローレンス・ナイチンゲールが描いた看護の世界を、現代で体現し続けているのだと言えるのかも知れません。特に「看護は、健康アウトカムの増進」という包括的な定義と重なったことで、私のMBA、起業、政策提言といった活動が看護そのものであることが明確になりました。
看護学から政策、ビジネス、研究へと進んだ道は、理想とする看護の実現に向けた、必然的なステップだったと考えています。



国会議員政策担当秘書などの資格・経験は、現場課題の解像度や政策提言にどのように影響していますか?



国会議員政策担当秘書などの資格や経験は、私にとって「目的」ではなく、現場の課題解決を加速させるための強力な「道具」に過ぎません。
資格から影響を受けるというよりは、その道具を用いて現場課題の解像度を上げる活動はしていますが、私の活動の原点と目指す世界は看護学生時代から全く変わっていません。
原点は看護学生時代の教えです。私の活動の核は、慶應義塾大学看護医療学部1年生の時、当時の久常節子教授(後に日本看護協会会長)から教わった看護の三つの視点にあります。
「患者さんへの看護」、「家族・地域への看護」、そして「国への看護」です。この授業には、政治家や漫画原作者など、多様なキャリアを持つ看護師がゲストスピーカーとして登壇しました。
その中のお一人、石田まさひろ氏(現参議院議員)から、「現場の声は個々では小さいが、その声をまとめると社会課題になる。そして、社会課題の解決方法は一つではない」という教えを受けました。この看護学生時代の教えこそが、私のキャリアの土台です。
現場で集めた個々の声を社会課題へと昇華させ、それを政策へと繋げるために、政策担当秘書やMBAといった道具を手に入れました。これらの経験と資格は、現場課題の構造的な背景を理解し、有効な政策提言を行うためのスピードと実行力を高める推進力として機能しています。
私の活動は、資格を手に入れてもなお、現場の声を集め、国に届きやすくするという学生時代からの使命を体現しているものです。



研究・臨床・事業の行き来が、坪田先生の視座にどんな相乗効果をもたらしましたか?



研究、臨床、事業という3分野を行き来することで得られた最も大きな相乗効果は、「多分野をつなぐ独自の価値の発見」と「各立場に対する深い感謝と尊敬」です。
「コウモリ野郎」から「情報インフラ」へ多分野を渡り歩くことで、私は斜に構える批評家ではなく、当事者意識を持つようになりました。現在は、この立場こそが世の中に情報を行き来させ、進化を促す「情報インフラ」としての役割を果たすと確信しています。
現代社会では、同じ専門性を持つ人々は世界中で容易に繋がれます。しかし、異なる専門性を持つ分野同士を繋ぐ架け橋の役割は、より重要性を増しています。
かつての遣隋使や遣唐使のように距離があることが重要だった時代とは異なり、現代では「専門性間の距離を埋める」ことが求められます。各分野で世界を牽引する100点や120点の専門家になることは難しくとも、各分野で及第点(合格点)を取ることで、それぞれの領域を理解し、その知見を翻訳・伝達できる稀有な人材として価値が生まれます。
3分野を行き来することで、私の視座は「課題解決の実行者」から「異なる専門家たちへの感謝と尊敬に基づき、その知見を結びつける触媒」へと高まりました。これが、臨床・事業・政策という複雑な課題を解く上での、最も本質的な相乗効果となっています。
人材育成・採用について



男性看護師の活躍促進に向け、組織がまず着手すべき施策を教えてください。



男性看護師の活躍促進に向けて組織がまず着手すべきは、一見すると「ジェンダー・ニュートラルな評価・配置システムの構築」や「多様なロールモデルの創出」などと言いたいところですが、まずはその前提として「組織のHR(ヒューマンリソース)に関する現状分析」を行うべきです。
人事として活動した経験から、性別、年齢、家族因子などで人材データを管理し、家族介護や妊娠といった離職予測因子を導き出し、それに対応した採用を強化することは有効です。
採用段階で個人の属性にバイアスをかけることは法律違反ですが、募集時にコンタクトするコミュニティやプラットフォームはコントロールが可能です。性別に偏りのない媒体や、多様な人材が集まるコミュニティと連携を強化することで、間接的に多様な母集団形成を促せます。
そして、無意識のバイアスを排除する意識的な努力と同時に最も気を付けていただきたいのは、性別に対する無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)を排除することです。HR分析を行うと、過去のデータや成功事例に基づいて、どうしてもバイアスがかかった予測や戦略が生まれやすくなります。
単に看護師の総数を増やすことを目標にするのではなく、データに基づきながらも意識的にフラットな視点を保ち、理想とする多様な組織像に向けて採用・配置をコントロールしていくことが、持続的な男性看護師の活躍を可能にするために最も大切です。いつでもお手伝いしますので、気になりましたらお声がけください。



若手を早期に戦力化するために、外せない要点は何でしょうか?



まずは若手を早期に戦力化するために外せない要点は、「個人の内発的動機に基づく、インタラクティブな目標設定と継続的な成長支援」です。
個を理解して職場のビジョンとの最小公倍数と最大公約数を設定します。まず、その若手個人が持つモチベーションや、「ついついやってしまうこと」といった自然な行動特性を深く理解することが不可欠です。
組織が求める「仕事でやってもらいたい方向」と、本人が「目指す方向(キャリア志向)」を重ね合わせ、両者が最大限に重なる最小公倍数と最大公約数を双方向で作り上げていくことが重要です。
このプロセスにおいて重要なのは、管理側から目標を与えるのではなく、本人自ら目標の意義に気づき発言してもらうことです。これにより、目標に対する当事者意識(オーナーシップ)が生まれ、主体的な行動が促されます。
目標が設定されても、目指す世界があるにもかかわらず、私自身もそうであるように、人は毎日の努力を怠ってしまうことがあります。そのため、一度作り上げた目標を放置せず、継続的に関与(エンゲージメント)し、伴走することが必須です。
具体的には、定期的なコンタクトを通じて、目標に向けた進捗と「成長の兆し」を意図的に取り上げ、承認することです。この「取り上げ」は、若手の自己効力感を高め、成長を加速させます。
このような成長支援ができる組織は、単なる労働力を得るだけでなく、自律的に学習・成長する人材を早期に確保できます。



医療機関・事業者に向けて、持続可能なチームづくりのために“明日からできる一歩”をご提案ください。



持続可能なチームの形は、組織が目指すビジョンや地域特性によって異なります。そのため、まず医療機関・事業者様に「私たち組織の目指すビジョンを明確にする」ことこそが、“明日からできる最初の一歩”となります。
ビジョンを明確にすることは、チームの方向性を一致させ、迷いをなくすための最重要事項ですが、それ自体が難しい課題です。もしビジョン策定に困難を感じる場合は、私たちのような外部の専門家の支援を受けることで、より深く、現場の課題に基づいたビジョンを描くことが可能です。
一般社団法人日本男性看護師會は、私たちだけでは看護界を支えられないという認識のもと、多様な外部企業との連携を積極的に行っています。これは、自組織で全てのリソースを賄おうとするのではなく、外部の専門性を活用してチームの不足を補い、持続可能性を高める戦略です。
具体的には、看護DX会社、看護に関する保険会社に加え、夜勤看護補助者育成・派遣会社、外国人人材紹介会社、補助金コンサルタントなど、多岐にわたる企業と連携しています。
重要なことは、これらの連携先を選定する際に、その会社のビジョン、実態、そして実績を徹底的に分析し、安心できるパートナーのみと連携している点です。 持続可能なチームづくりは、自組織のビジョンを明確にし、そのビジョンに合致した外部リソースを賢く活用することで実現します。
看護部門の活用に関して気になることがありましたら、ぜひ私たちにお声がけください。
キャリア形成中の方へのアドバイス



これから看護の道を志す10–20代へ、最初の現場選びと学び方のヒントをお願いします。



これから看護の道を志す10代・20代の皆さんへ、最初の現場選びと学び方についてヒントをお伝えします。
キャリアの選択において最も重要なのは、常に「3つ」以上の選択肢から選ぶことです。
1つの選択肢は盲目的です。2つでは「あっちがよかった」という後悔が生じます。3つの選択肢は、単純比較を超えた中庸を生み、初めて真剣に考えるきっかけを与えてくれます。
Aは給与が良いが休暇が少ない、Bは給与は低いが休暇が多い、Cはその中間に位置する、といった比較を通じて、自身の価値観に基づいた納得解を探すことができます。
まずは、病院ナース、産業ナース、訪問ナースといった大まかな分野を3つ以上挙げ、次に、 それぞれの分野で具体的な職場(病院A、企業B、ステーションCなど)を3つずつ探し出してみてください。このプロセスは、あなたの視野を確実に広げます。
特に、卒業時にしか得られない「新卒」という肩書は非常に貴重です。産業ナースなど、新卒でしか受け入れを行わない職場もあるため、この機会を逃さず真剣に検討してください。キャリア相談は、私たち日本男性看護師會が男女問わずいつでも受け付けます。
キャリアを考える際、 過去や現在にとらわれない未来志向も大切です。過去や現在の常識にとらわれないでください。
2025年の今、看護学校に入学した学生が入学した当時は、ChatGPTは有名ではなく、プロンプトエンジニアという言葉もありませんでした。
しかし現在、そのスキルを持つ人材が年収1,000万円以上を得ているケースもあります。あなたが生きるのは「現在と未来」です。
未来に何が起こるかを見据え、テクノロジーや社会の変化に対応できるスキルを学ぶことが重要です。ぜひ、現在と未来を考えて、柔軟に学習し続けてください。



今回はとてもためになるお話を聞かせていただきありがとうございました。坪田先生のお話を参考に未来を見据えたキャリア選択をしていきたいと思いました。
日本男性看護師會の基本情報
今回インタビューにご協力いただいた先生は、日本男性看護師會で代表理事を務められている坪田康佑先生です。
| 名称 | 日本男性看護師會 |
|---|---|
| 所在地 | 〒160-0023 東京都新宿区西新宿三丁目3番13号 西新宿水間ビル6階 |
| ホームページ | https://nursemen.net/ |

